「思いを結ぶ七五三 」後編── 家族の時間を未来へつなぐ、それぞれの仕事
一着の着物には、子どもたちの成長への願いと、つくり手たちの思いが託されています。
花を束ねること。
衣装を整えること。
デザインを考えること。
写真を撮ること。写真を未来へつなぐこと。
それぞれの仕事は違っても、4人が見つめているのは、子どもたちとご家族が過ごす、かけがえのない時間です。そのまなざしは、どのように写真へとつながり、ご家族の記憶として残っていくのでしょうか。
後編では、4人それぞれの言葉を通して、それぞれが仕事で大切にしていることをご紹介します。
それぞれの仕事から、ご家族へ届けたいもの
異なる役割の4人が見つめている先には、いつも子どもたちとご家族の時間がありました。
その一つひとつの仕事は、「家族にどんな時間を届けたいか」という思いにつながっています。
フローリストの前田は、花をもっと日常の中で楽しんでほしいと話します。
過去、ドイツの花屋で働いていた頃の生活で印象的だったのは、花が特別な日のためだけではなく、暮らしに溶け込んでいたことでした。友人の家を訪ねるときに花束を持っていくことも、週末に花を買って帰ることも、ごく当たり前の風景。
「絶対に美しくないといけない、という感覚はあまりなくて、少し曲がっていても、葉っぱが枯れていても、『それも自然だよね』っていう空気があるんです」
花を飾ることは、季節や暮らしの変化に、そっと目を向けるきっかけでもあります。
誰かと食卓を囲む時間も、何気ない一日も、そのひとときを少しだけ豊かにしてくれる。
そんな暮らしとの向き合い方が、前田のものづくりにつながっています。
(写真)駒沢公園スタジオにて行っている、月曜花屋の様子
そして、企画を担当する星が大切にしているのは、子どもたちが着物を着ていても、いつものように家族と自然に過ごせる時間です。
デザインを担当する青柳も、同じように家族の時間を思い描きながら制作を進めています。
「自分たちが作りたいものを作るというよりも、ご家族のストーリーが第一なんです。主役はお子さんとご家族。その時間がそっと引き立つものを作りたいと思っています」
(写真)新作着物発表に向けたモデル撮影の様子
“思い通りにならない時間も、家族の大切な物語”
この考えの原点となった出来事を、企画を担当する星は今でもよく覚えています。
ある七五三の撮影の日。
3歳のお子さんは、着物を着ることができず、「いやだ、いやだ」と泣きながら走り回っていました。
当時は、“きちんと着物を着せてあげること”が、ご家族に喜んでもらえることだと思っていたといいます。
何度着ても脱いでしまう。 追いかけては着せ、また脱いでしまう。
そんな時間が続きました。
「一度、お母さんには待っていてもらい、その子と二人だけで話をしたんです。『どうして嫌なんだろう?』って聞いたら、『恥ずかしい。でも着たい。海外にいるパパにも見せたい』って話してくれて」
お子さんは少しずつ気持ちを整え、自分のペースで着物を着ることができました。ご家族も、その姿をあたたかく見守りました。
泣いていた時間も、着付けをしている時間も、最後に見せてくれた笑顔も。
七五三の一日が、家族だけの物語になっていきました。
「この撮影を経験してから、スムーズに着物が着られなくても、それはそれでいいと思えるようになりました。その日、その瞬間を、そのまま残してあげたいと思うようになったんです」
この出来事は、クッポグラフィーが大切にしているストーリーフォトの原点にもつながっています。
フォトアートディレクターの久井は、ストーリーフォトは写真の背景にある感情や時間の重なりまで写すことだと言います。
「七五三は、着物を着て写真を撮るだけでなく、その日までの頑張りや、初めてのお化粧にワクワクした気持ち、家族みんなでお祝いした時間も含めて、その子にとって特別な一日なんです」
七五三の思い出は、その日に流れた時間のすべてです。
笑ったことも、戸惑ったことも、家族みんなで過ごした時間も。
言葉だけでは残しきれない一日を、写真として未来へ届けていきたい。
「普段なら、そのまま過ぎてしまうような小さな出来事ってあると思うんです。そういう時間を写真として残しておくことも、ご家族やお子さんにとって大切なことだと思っています」
それぞれの時間が重なり、一枚の写真になる。
フォトアートディレクターの久井は、写真の魅力をこう語ります。
「写真って、人が撮るものなんですよね。カメラは機械だけど、シャッターを切るのは人で。機械が生み出す正確な結果も面白いけれど、人にはそれぞれ、生きてきた経験や環境があって、その人らしい視点があります。
目には見えないけれど、その人が見てきたものや感じてきたことがあるから、人って面白い。でも、それは頭の中にしかないから、少しずつ忘れてしまうし、周りからも見えません。
写真は、自分が見ていた過去を残していけるものなんです」
「写真は、スマホでも撮れるし、誰でも撮ってもらえるものです。でも、フォトグラファーにも今日まで歩んできた時間があるし、子どもたちにも、パパやママにも、それぞれの日々があります。そうした背景を持った人たちが出会って生まれる写真だからこそ、ここでしか残せないもの、その日にしか生まれないものになるんだと思います。 簡単に、インスタントなものには置き換えられない価値がある、と思っています」
一枚の写真を開くたび、その日に流れていた時間が、静かに蘇ります。
笑ったこと。
泣いたこと。
少し照れたこと。
ご家族がともに過ごした時間や、その場に流れていた空気まで、ゆっくりと思い出されていきます。
七五三という節目の一日が、
いつか家族で写真を囲みながら、
「あの日はこんな時間だったね」
そんなふうに語り合える記憶になっていくこと。
その一枚が、ご家族の歩んできた時間と、これから続く未来を、そっと結んでいくことを願っています。
インタビュー日:2026年6月
取材・文 鈴木美穂